大判例

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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)5号 判決

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本件発明の要旨及び本件審決の理由の要点が原告主張のとおりであること、第一引用例及び第二引用例に本件審決認定のとおりの事項が記載されていること、並びに本件発明と第二引用例記載のものとの間に本件審決認定のとおりの一致点及び相違点(1)、(2)が存することは当事者間に争いがなく、相違点(2)の判断は原告の認めるところである。

二 取消事由に対する判断

1 前記当事者間に争いがない第一引用例のねじ歯車圧縮機に関する記載の構成と本件発明の要旨を対比すれば、右ねじ歯車圧縮機の構成が本件審決認定の相違点(1)の本件発明の構成そのものであることは明らかである。そして、前記争いのない第二引用例の記載によれば、同引用例には、ねじ歯車圧縮機において圧縮空間に給油することによつて、密封、潤滑、冷却作用を行うという技術が開示されており、第一引用例には右給油機構の点を除く本願発明のねじ歯車圧縮機の構造がそのまま開示されているのであるから、両者は同一技術分野に属し、第二引用例記載のものに第一引用例記載の右ねじ歯車圧縮機の構造を適用して本件発明を想到することに格段の発明力を要するものとは認められず、しかも、両者を組合せることによつてもたらされる作用効果は、後記認定の第二引用例記載のものの奏する作用効果以上のものとは認められないから、第一引用例及び第二引用例から本件発明を想到することは当業者が容易に想到し得る程度のものとは認められる。

2 原告は、本件発明と第二引用例記載のものとは、ローターの形状、それに伴う圧縮の態様を異にし、その属する技術分野が相違する旨、また、本件審決は、右相違点とその奏する作用効果の違いを看過した旨主張するが、前認定のとおり、本件発明に係るねじ歯車圧縮機も第一引用例及び第二引用例記載のねじ歯車圧縮機も、ともにねじ歯車圧縮機である点において何ら異なるところはなく、同一の技術分野に属するものであり、本件審決は、本件発明と第二引用例記載のものとが共にねじ歯車圧縮機であつても、そのローターの形状が相違し、それに伴う圧縮の態様を異にすることを踏まえたうえで、そうした相違をすべて統括して相違点(1)と認定し、その上で右相違点について判断をしているのであるから、それらの点を看過したとはいえない。また、成立に争いのない甲第二号証(昭五〇―一九七七二号特許公報)によれば、本件発明は、第一引用例記載のねじ歯車圧縮機の構成と同じ従来のねじ歯車圧縮機の有する圧縮したガスの漏洩等種々の問題を解決するために、右圧縮機に「液体を作動空間に向つてローターの平面の高圧出口と同じ側の二つの交叉する孔の間の交叉線上に位置する開孔を通して噴出させる」という構成を採用したもので、右構成を採用したことにより、右液体によつて密封作用、潤滑作用及び冷却作用を同時に行うことができ、隙間からの圧縮ガスの漏洩を少なくして高い量的効果を得ることができるという所期の効果を奏し得たものと認められるところ、成立に争いのない甲第四号証(第二引用例)によれば、第二引用例には、「液体」を「作動空間に向つて……噴出させる」ことに関して、「油は異なつた点でガスに圧縮作用を有する各装置のその部分に給油されるであろう」、「歯の間の開孔を密封するために装置に油を供給する」、「油は迅速に回転している装置の間で泡を形成し、装置を潤滑しかつ装置間からガスの漏洩するのを防止するための液封として作用する。」との記載が存することが認められるのであつて、右記載によれば、第二引用例記載の圧縮機において作動空間に供給される油は、装置(両ねじ歯車)間の「シール作用」と「潤滑作用」をするほか、ローターの圧縮作用によつて作動空間に圧縮熱が生じることは自明なことであるから、右液体は、圧縮作用によつて発熱されたガスを冷却する作用をもなしているものと認められるのであつて、そうだとすれば、第二引用例記載のものも、右作用により本件発明と同様にローターとケーシング間の隙間からのガスの漏洩を少なくして高い量的効果を得られるものと認められ、両者は、その作用効果の点においても異なるところがあるとはいえない。原告の作用効果が異なるとの主張の趣旨が、そのローターの形状が異なり、圧縮の態様が異なることから、本件発明に係るねじ歯車圧縮機の方が第二引用例記載のねじ歯車圧縮機より高い圧力を得ることができ(高い圧縮比を得ることができ)、その点において異なるとともに、それによつて山形室(作動空間)に発生する温度も異なるから、そこに供給される液体の奏する冷却作用等の程度も異なるという点にあるとすれば、それはローターの構造の違い及びその違いに基づく圧縮態様の違いそのものに基づく作用効果の程度の違いと解するほかなく、前認定のとおり、本件審決は、そうした違いを相違点(1)と認定し、判断を加えており、しかも、前認定のとおり、第一引用例には、右作用効果の程度の違いをもたらす構造のねじ歯車圧縮機が開示されており、相違点(1)の第二引用例のねじ歯車圧縮機の構造に代えて、右構造の圧縮機を採用することは容易に想到し得るものと認められるのであるから、右作用効果の違いを云々する原告の主張は、失当である。

3 そうであるとすれば、本件審決には原告主張の違法の点はなく、本件審決の認定判断は正当というべきである。

三 以上のとおりであるから、本件発明は第一引用例及び第二引用例の記載事項から当業者が容易に発明することができたものと認めるのが相当であつて、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。

〔編注〕本件発明の要旨は左のとおりである。

少くとも二個の同平面で交叉する孔よりなり、円筒と両端壁を備えた作動空間と低圧と高圧の出入口よりなり、さらに孔の中に回動自在に架せられそこで密封的に封鎖された雌雄のローターよりなり、ローターは互いに係合する突部と溝部を備え、雄ローターの突部は少くともローターのピツチ円の半径上外側にある主要部分と大体凸状の側面を有し、雌ローターの突部はローターのピツチ円の半径上内側にある主要部分と大体凹状の側面を有し、両ローターは作動空間の壁とともに山形室を形成し、各々はそこで連通する雄ローターの溝と雌ローターの溝とよりなり、前記山形室の基準端は孔の軸に固定的に交叉する面内で高圧出口部にあり、前記の頂端はローターの回転に伴い前記固定した交叉面に向つて軸方向に移動し、そのため室の容積が変化するものにおいて、液体が作動空間に向つてローターの平面の高圧出口と同じ側の二つの交叉する孔の間の交叉線上に位置する開孔を通して噴出させることを特徴とする弾性流体のためのねじ歯車圧縮機。

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